「いったいどれだけ頑丈な箱に入ってたの?」

「普通の箱です。そんなに珍しいですか…」

「だってさあ、俺の知ってるお嬢様たちなんて、すっごい肉食だよ。医者、弁護士、企業幹部が大好物でさ、毎日のように合コンやらパーティやら開いては、食い散らかし…」


私の視線に気づいたんだろう、久人さんは急にゴホンとわざとらしく咳払いをし、「さ、行ってきて」と話を途中でやめて私を押し出した。


「これ見本ね。同じのふたつ買ってきて」


床から拾い上げ、持たせたのは黒い煙草の箱。さっきぶつかったのはこれだ。中央に金色のアルファベットがふたつみっつ絡まり合っている。

久人さんは「桃のもこれで買いな」とお札も私の手に握らせた。


「その"食い散らかし"のお嬢様がたと久人さんのご関係は…」

「知り合いだよ、ただの」

「大好物であるという"企業幹部"の中に久人さんは…」

「若い頃の話だよ、そうやって人脈作るものなの。桃は気にしなくていいから、さ、行っといで」


なにかごまかしてません?

私の疑りの眼差しから逃げるように、私を寝室から押し出すと、久人さんはバタンとドアを閉めてしまった。

まあ、千晴さんの調査でも、女癖には問題ありと出ていた。きっとそのあたりの話だろう。久人さんを信じるなら昔の話なんだろうし、気にしても始まらない。

それにしても、みんなそういう経験って、いったいなにをきっかけに足を踏み入れるんだろう…。

等々考えながら玄関のドアを開けたとき、「桃!」と後ろから声がした。振り返れば、久人さんが急ぎ足で廊下をやってくる。


「今が何時か忘れてた。危ないから俺も行く」


いかにもルームウェアという感じの、白いTシャツとグレーのスエット。久人さんはシューズボックスから黒いスニーカーを出すと、素足にそれを履いた。


「なに?」

「いえ」

「心配しなくても、桃の買い物は覗かないよ」


彼らしい気遣いに、笑ってしまった。


「久人さんて着痩せするなあって思って見ていただけです」

「そう?」

「はい」