「見られたくなかったらあっちで着替えておいで。下着はここで洗っていってもいいよ。浴室に干しとけば朝には乾くから」

「えっ、ですがその間、なにをつければ」

「寝るだけだもん、つけなくていいんじゃない？」

「は、えっ!?」


素っ頓狂な声を出した私に、久人さんが人の悪い笑みを向ける。緊張、動転続きのところをからかわれ、さすがの私もむっとした。


「冗談やめてください」

「冗談なんか言ってないよ。なんならこれも亭主命令にしようか？」

「あのっ、今すぐ、コンビニに行ってくるという選択肢は…」


抱えたＴシャツとバッグを盾みたいにして、ついにワイシャツを脱いだ久人さんのほうを見ないようにしながら、必死で提案した。

久人さん、ワイシャツの下になにも着ないんだな。って私、結局見てる。

彼はベルトをカチャカチャ鳴らしながら「なんだ」と冷静な声を出す。


「意外と気づくの早かったね」

「からかわないでください。行ってきます」

「ついでに煙草買ってきて。出て右手のコンビニね。逆行くと煙草売ってないから」


部屋を出ようとしていた私は、その指示に振り向いた。その瞬間、なにかが目の前に飛んできた。

「あ！」という久人さんの慌てた声。飛んできたなにかは、私の額にコーンと見事にぶつかった。


「いた！」

「ごめん！　よく見ないで投げちゃった」


すっ飛んできた久人さんが、じんじんする場所を指でなでてくれる。

とっさに閉じていた目を開けた私は、「きゃー！」と叫んだ。目の前に半裸の上半身があったからだ。それと、ベルトが外され、ファスナーも途中まで開いたスラックスが。

私の悲鳴につられたように、久人さんも「わー？」と声をあげる。けどすぐその原因が自分の格好だと理解したらしく、ちょっと身体を見下ろし、「あのさあ」と眉をひそめた。