「今日面接したキャリア採用の結果です、高塚さん。悪くないですよ」

「ほんと。何人採れそう?」

「ふたりですね。ひとりは人材大手で、エグゼクティブ相手のリクルーティングをしていたという」


ファイルを開いて、中身に視線を走らせながら「いいね」と久人さんが微笑む。


「すぐ本人たちに結果を戻して。競合と迷ってるようなら、その競合の話もしっかり聞いておいてね」

「承知しました」


返されたファイルを軽く敬礼するようにこめかみに当て、次原さんはきびきびと部屋を出ていった。




この会社にはさまざまな相談が持ち込まれる。

専門として看板を掲げているのは人材・経営・戦略系のコンサルティングであるので、主にはそういった内容が多い。

相談内容や先方の希望によって、対応もいろいろだ。ソリューションの提供をしたり、望まれれば経営者などの人材も提供したり、調査だけの協力ということもある。

基本的には案件ごとに社内でプロジェクトチームが組まれる。

それを200名足らずの社員で対応しているのだから、どれだけ少数精鋭なの、と教えられたときは驚いた。




「んー、まずは予定していた面子でチーム作って、どんな協力ができそうか検討だな。新しく入ってくる人、できそうならそこに入れたい。どう?」


翌日のヒアリングの帰り、相手先の会社を出るなり久人さんは次原さんに電話をかけ、聞いた内容、これからのプラン、相談事などを手早く伝えた。


「うん、詳細はメールする。よろしく」


駅に着く前に通話を終わらせ、携帯を胸ポケットにしまう。こういうスピード感で動いている人なら、そりゃ忙しいだろう、と思えた。

駅に入るのかと思いきや、「じゃあ」と久人さんはタクシーの停まっているロータリーのほうへ足を向ける。


「えっ」

「今後のこと相談しに、"キャリア"のほう行ってくる。そのまま別の会社に出勤するから、今の件のフォローが終わったら、桃は庶務に戻っていいよ。同行ありがと、じゃあね」


にこっと笑って手を振ると、タクシーに乗り込み行ってしまった。