「いいよ。七時までなら時間ある」

「ありがとうございます」


プランナーさんがくれたカタログのお店は、ここから歩いてすぐだ。久人さんと私は、日本有数の繁華街の石畳を、並んで歩いた。


「結納の準備、あまりお役に立てなくて気になってるんです」

「いいんだよあんなの、式の準備も始まってるのに今さら結納とか、形式以外の何物でもないんだから、やりたい人たちに任せておくのがベスト」


ほとんどを叔父と久人さんのご両親に決めてもらっている。楽しそうではあるのだけれど、心苦しくもある。


「両家のイベントなんだし、これも正しい形でしょ」

「緊張します」

「なんで、もう俺の親にも会ってるじゃない」

「それでも緊張します」


口上もあるし、段取りもあるし、楽しみな反面不安もある。

想像したらドキドキしてきて、思わず胸のあたりを押さえた私の肩を、久人さんが親しげに抱き寄せた。


「しっかりしなよ。結納では俺、桃の隣にいてあげられないんだよ」

「そっか…頑張ります」

「正面で桃がガチガチになってたら、俺笑っちゃうからさあ、普通にしててよ」


この人なら、本当に遠慮なく笑いそう。

肩に置かれた腕の重さに、落ち着かない気持ちになりながら、「頑張ります」ともう一度言った。


* * *


「本日はお日柄もよろしく、高塚家ご子息久人さま、御園桃子のご良縁が相整いましたことを心よりお祝い申し上げ、仲立ちを務めさせていただきます」


仲人である叔父さまの邸宅で、結納の儀は始まった。

私はどうやら、緊張と縁遠い心境を保てそうでほっとしていた。なぜかというと正面に座る久人さんの、紋付き袴姿が最高に美しく、凛々しいからだ。

お父さま、お母さまに続いて彼が玄関をくぐったとき、出迎えていた面々がはっと息をのんだのがわかった。