久人さんが、目を見開いて樹生さんを見る。


「そういうもの?」

「そういうものだよ。それで親子喧嘩くらいしてこいよ」


今度は私のほうを見た。同じことを言われたからだろう。

それから足元で遊んでいる二歳の子を、おそるおそる抱き上げる。今度は泣かれずに済んだ。


「そうかー」

「今度、また食事会でもしようぜ。ここ、バーベキュー専用の庭があるし」

「次原も呼んでカメラマンさせようか。あと子守」

「いいね。あいつだけノンアルコールな」


ひどい。

笑い合う薄情な先輩ふたりを見て、子どもたちもかわいい笑い声をあげた。




「樹生のところも、三人目かー」


樹生さん宅からの帰り、じりじりと照りつける夏の日差しの下、久人さんが空を見上げてつぶやいた。


「奥さまの体調がよさそうで、よかったですね」

「さすが、落ち着いてるよね」


秋には男の子が産まれるらしい。『待望の男の子ですね』と言ったら、『性別なんてなんでもいいよ、健康なら』と樹生さんは笑った。

案外、そんなものなんだろうと思った。親が子供に期待するものなんて、ごくごくシンプルなのかもしれない。

幸せであれ、と。


「あの、じゃあ私、ちょっと用事があるので」

「うん、行ってらっしゃい」


地下鉄の駅で、別方向に別れる。この週末は、久人さんは仕事もないので、家でゆっくり過ごす予定だ。