「へえーっ、生まれ年も月も同じなのは、偶然だったってことか?」
四歳になるお嬢さんを膝に乗せ、樹生さんが目を丸くする。「そうなんだよ」と久人さんは、奥さまが供してくれた香りのいいアイスティを飲みながらうなずいた。
「俺のプロフィールを見て、運命だと思ったってさ。それを聞いたときは、腰が砕けたよな、こっちは」
ね、と私を見る。私はうなずき返した。
すべてが氷解したあの日、お義父さまの口から出た言葉の中で一番衝撃だったかもしれない。
「たしかに、そりゃ運命だなあ」
「まあ実際、それがうまく働いたって認識はあったみたいだけどね」
もうすぐ二歳というお嬢さんが、トコトコ歩いてきて、ソファに座る久人さんの膝にしがみつく。久人さんは抱き上げ、泣かれた。
「あれー? 前に会ったときは平気だったのにな」
「半年前だろ? とっくに忘れられてるよ」
樹生さんが肩をすくめた。都心の広々したマンションの一角が、彼の自宅だ。はじめて招かれ、奥さまとも初対面を果たした。
奥さまのナチュラルな美しさにも舌を巻いたけれど、それ以上に、お父さんをしている樹生さんの姿が新鮮だ。どんな炎天下でも汗ひとつかかなそうな、生活感のない人が、本当にパパだったなんて。
なー、とお嬢さんの頬にキスをする様子は、どう見ても父親だ。食い入るように見つめる私に、「あいつが子煩悩なの、意外だよね」と久人さんも言った。
「俺が子煩悩なわけじゃない。親ってのがそういうものなんだ」
「はいはい」
「伯父さんもそうだと思うぜ。あの人は特別お前びいきだからな。それが邪魔して、お前が悩んでることに気づかなかったんだ。許してやれよ」
いとこのアドバイスに、久人さんは苦笑した。
「俺は、許すなんて立場じゃ…」
「許すなんて立場なんだよ。お前もう三十だろ? いつまで父親崇拝してんだ、もう一対一の、人間同士の関係になっていい時期だよ」