できるかな…と今度は難しい顔をしている。

してください。私よりずっと長い時間、一緒に過ごしてきた方たちです。ぶつけて、ぶつけられて、受け止めて、受け止めてもらって。それに慣れてください。

あなたが発しているのと同じだけの愛を、彼らが持っていることを、知ってください。


「とりあえず、今はしません」

「え、けんか?」

「違います」


私は久人さんを押しのけ、ベッドを降りた。なんのことだかわかったらしく、久人さんは「えー?」と不満そうな声をあげる。


「私は午後から出社しますので」

「俺が寝込んでるのに!?」

「お元気ですよね?」

「立派に熱があるよ!」

「出る前に、必要なものは枕元にお持ちしますね」


今度こそ彼は、本気でふてくされてしまった。「あ、そう」と言い置いて、ブランケットに潜り込み、向こうを向いてしまう。

私は身を屈め、首を伸ばし、耳にキスをした。


「いい子で待っていてください」


さ、行こう、とベッドサイドを離れかけて、振り向いた。久人さんの耳が、赤く染まっていることに気づいたからだ。

彼も自覚があるんだろう、いたたまれなそうに枕に顔を沈め、耳を手で隠す。


「…定時で帰ってきてよね」


ぼそっと、すねた声がした。

私は、笑っていることがばれないよう気をつけたつもりだったんだけど、たぶん無駄だった。


「はい」


結局、私が部屋を出るまで、久人さんは頑固に背中を向けたままだった。