うつぶせで枕に埋まっていた顔が、ぐるんとこちらを向いた。


「言ったでしょ、気が散るから」

「でも、今の会社には、雇ってくださったのに…」

「秘書が奥さんなのは、べつにいいんだよ」

「え?」


それと新しい会社と、なにが違うの?


「やっぱり立ち上げとなると、身内がいたらやりにくいですか?」

「ちょっとこっちおいで」

「えっ?」


手招きに従い、私はベッドの上に身を乗り出した。すると腕を勢いよく引かれ、久人さんの上に倒れ込むはめになった。


「きゃあ!」

「する?」

「はい?」


ぐるっと身体をひっくり返され、いつの間にか私は、久人さんを見上げていた。そしてにやにやしている顔を見て、なにを言われたのか理解した。

顔が熱くなってくる。


「熱があるんですよ」

「すれば下がるかも」

「いきなりどうしたんですか?」

「いきなりじゃないよ」


言いながら、首筋に吸いつきはじめる。押しのけようとした身体が、あんまり熱いので、びっくりした。これは寝かせないとだめだ。


「久人さん…」

「俺はねえ、一日休みで、予定もなくて、ベッドの上にいて、好きな子の顔が見えてたら」


え…。