「次原さんから、『たまにはゆっくり養生するといいですよ』とのことです」

「生意気だな」


枕の位置を直しながら、はん、と吐き捨てる。

久人さんて具合が悪くなると、機嫌も悪くなるんだ、はじめて知った。

彼自身、体調を崩すことはまれだったらしい。「なにこれ身体痛い」と泣き言を漏らし、「仕事したい」とごね、しかしどうやったって身体が動かないので、こうして不承不承、寝ている。


「うつるからあっち行っててよ」

「知恵熱がどうしてうつるんです」


気分いいなあ、と浸っていたら、まさかの舌打ちまでされた。


「商社のほうへは、お義父さまから休みの連絡を入れていただきました」

「…父さん、俺が高熱って聞いて、なんて言ってた?」

「笑ってらっしゃいました」


枕に顔を埋めてしまう。よほど不甲斐ない思いをしているに違いない。

私はブランケットの上から、彼の背中をポンポンと叩いた。


「好意的な笑いでしたよ。それと驚かれていました。そこまで気を張っていたのかと、申し訳ながって」

「そうなるよねー、あー情けない…」


弱々しくこぼす久人さんには言えないけれど、次原さんも似たような反応だった。高熱の原因を『気が緩んだみたいで』と伝えただけで、彼らしい鋭さでなにか察したらしい。『しょうがない人ですね』と噴き出し、それからほっとしたように言った。


『自由になったんですかね?』


久人さん、きっと今は、いきなり解き放たれて、虚空で迷子になっている状態だと思うんですけれど。

行きたい場所が見つかるまで、ゆっくり漂っていましょうね。

私、隣にいます。

…そういえば、とそこで思い出した。


「あの、どうして私は、新しい会社に呼んでいただけないんでしょうか」