それについて考えていたのか。

私は新しいカップを彼の前に置き、足元に屈み込んだ。


「すてきだと思います。私もお手伝いさせていただけますか?」


久人さんが、ちらっと目線をこちらによこす。


「それはちょっと保留だなあ」

「えっ」

「桃が職場にいたら俺、気が散っちゃうしなあ」

「えっ?」


今もいますよね?

彼が、自分の隣のあいたスペースをぽんぽんと叩いた。座れということだと理解し、私は従った。

腰を下ろすと同時に腕が伸びてきて、私の肩を抱き寄せる。


「父さんたちも、縛られてたんだなあ…」


私の頭のてっぺんに頬を載せ、久人さんがつぶやいた。私は黙っていた。返事を求められているのではないとわかったからだ。


『お前が来てからの日々は楽しかった。家の中が明るく生まれ変わった』


お義父さまはしみじみそう言った。

かつて子供を守り切れず、一族の暴虐に巻き込んでしまった。久人さんをもそういう目には遭わせまいと、極力親族からの横槍を退けて育てた。

そうできる立場に彼はなっていたし、今度こそ大切な存在を守り抜くと、決めていたのだ。


「そういえば俺、会社を継げとも結婚しろとも、父さんから直接言われてはいなかったよ。ただ、そういう慣習なんだって信じてただけで」

「排除しきれなかったノイズですね」


高塚には"親族会議"と呼ばれる集まりが定期的にあり、さすがにそれをすべてすっぽかすわけにはいかない。そういう場で、お義父さまが払いのけたかった情報の一部が、どうしても久人さんに流れ込むのは、避けられなかった。