久人さんの顔が歪んだ。


「二十年前、はじめて会ったときからね」


言いながら、再び息子を抱き寄せる。今度は両手で、しっかりと。久人さんは、抱きかかえられるまま、頭をお義父さまの肩にすりつけて。

お義母さまに頭をなでられながら、嗚咽を噛み殺していた。




おふたりは結婚前からおつきあいしていたものの、高塚の繁栄のため、お義父さまにはべつのお見合い相手を親族が用意したらしい。


「この人はそれを蹴ってね、私と結婚してしまったの」


お義母さまが微笑み、隣に座るお義父さまの手をそっと叩く。

リビングに場所を移し、私たちは彼らの物語を聞いていた。私はもちろんはじめて聞くし、久人さんも、本人たちから聞いたことはなかったそうだ。


「親族の…噂話などから、なんとなく想像していました」

「一度、きちんと話すべきだったな。お前のことにも関わるから、ある程度成長してからと思っているうちに、もう振り返る必要はないと思うようになってしまった」


コーヒーカップの感触を確かめるように、両手でじっと挟み、お義父さまは対面の久人さんに、慈しむような、詫びるような眼差しを向けた。


「お前は、がんじがらめになっていたのにな」

「いえ、僕が、未熟で…」

「いや、お前の立場を考えたら当然のことだ。これは親である我々の責任だ」


ふう、と息をつき、肩の力を抜くと、お義父さまは話しはじめた。


「私たちは勘当同然で結婚生活を送っていた。そのうち男の子が産まれた。ちょうど同時期、高塚の当主だった私の父が、戻ってこいと言ってくるようになった。後継ぎに困っていたんだ。私以外に子はいないからね」

「悩んだわね」

「悩んだ。私は一族の根回しで就職にも苦労していた。生活は楽ではなかった」


当時を思い出すように、しみじみとふたりがうなずき合う。「だが断った」とお義父さまが言った。