「久人…」
お義父さまはそう呼んだきり、どう言葉をかけていいかわからないようだった。
久人さんは、お父さんの肩に頭を預け、まだ身体を小さく震わせている。振り絞るように心の中をさらけ出した名残だ。どれほどの決意だったのか。
ふたりとも長身だ。
顔立ちが似ているかと言われたら、当然ながら似ていないのだけれど、じゃあ親子に見えないかと言ったら、そんなことはない。
呼び合ったんだろうか、とふたりを見つめて思った。
「…先方は、高塚がいつか、子供を取り返しに来るのではないかとずっと怯えていたそうだ」
びく、と久人さんの肩が震える。なだめるように頭をなで、お義父さまは続けた。
「そんなことはしないと、一刻も早く安心してもらうのが、私たちの義務であり責任であると思った。母さんとすぐに飛んだのは、そのためだ」
「久人と連絡が取れなくて困っているとき、樹生くんが電話をよこしてくれたのよ」
見守っていたお義母さまが口を開いた。ふたりのほうへ近寄り、久人さんの肩に優しく手を置く。
「すぐに久人と会ってやってほしいって、それだけ言うの」
「お前が、私たちの調査と渡航を、気にしているだろうとはとは思っていた。だがこれほどお前を追い詰めていたとは、思いが至らなかった…すまない」
久人さんの肩を両手でつかみ、お義父さまは彼をしゃんと立たせた。久人さんの前髪はくしゃくしゃになって額が見えていて、目は赤くなっている。
小さな子みたいなその様子を、お義父さまとお義母さまは、まぶしいものでも見るように、目を細めてしばらく見つめた。
「我々も、これをずっと言いたかったが、言えなかった。やっと言える」
どんな言葉をもらえるのか、期待と不安が半々の瞳で、食い入るように久人さんが、父親を見つめている。その過ぎるほどの忠誠心を、お義父さまはまっすぐ受け止め、微笑んだ。
「私たちの息子は、お前だよ、久人」