遠慮しかけたお義父さまが、私の顔を見て、はっとする。お義母さまが彼の腕に、そっと手を置いた。


「久人のお嫁さんよ」


お義父さまはうなずき、ゆっくりと頭の上のハットを取った。


「失礼した。桃子さんにも、聞いてもらわなければいけない話だね」


知性と、深い優しさをたたえた瞳が私を見る。私は打ち震えるほど感激し、それを出しすぎないようにして、スリッパを用意した。


「ありがとうございます、どうぞ…」


そのとき、彼らの背後のドアが突然開いた。風圧で左右の壁が揺れるほどの勢いだった。

息を切らして飛び込んできたのは、久人さんだった。


「久人さん!」


忘れ物かと思い、「なにか取ってきましょうか?」と慌てて申し出た私に、久人さんは無言で首を振った。視線は両親に向けたままだ。


「駅の近くで、うちの車と、すれ違って…」


走って戻ってきたんだろう、まだ息を弾ませている。

お義父さんが目を丸くした。


「それで、ここに来ていると思い、戻ってきたのか」


久人さんはうなずいた。

運転士さんが駐車できる場所を探しているところだったに違いない。もしくは呼び出しがあるまで流すつもりなのかもしれない。

あとで来客用の駐車場を手配しないと、と頭の中に書き留めた。そして、久人さんはなぜ、ご両親がいると知って、飛んで帰ってきたんだろう。

お義父さまが、身体ごと久人さんのほうへ向き直った。


「…何度も電話したんだぞ」

「すみません、僕のほうがまだ、お話しできるほど整理できていなくて…その」