「じゃあ、お願いします」


知りたいです、いろいろ。

明日、目が覚めたら、べつの自分になっている気がする。

こんなふうに誰かと、体温や呼吸を分け合って、身体中からこぼれる滴を交換して、そんな過ごしかたがあるなんて、想像もしなかった。

全身でキスをしているみたいだった。

世の中の人って、みんなこんな体験をしていて、あんなに平然と、昼の街で暮らしているの?

久人さんだってそうだ。この甘さと、潤んだ情熱を経験上知っているのに、いつもはあんなにさっぱりと、ほがらかに『桃』なんて呼んだりして。

いつ切り替わるの?

なにがきっかけで、気分が変わるの?

あの清潔なスーツの下で、身体が熱っぽく息づくときが、あるの?


「ねえ桃ー、よくない顔してるよ、やめてよ」

「えっ、よくないとは、どんな」

「なんかやらかしそうな、キラッキラした感じ」

「やらかしそう?」


怖い怖い、とぼやきながら、久人さんが私の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。


「俺の経験則でいくと、遅咲きの子は、道を誤ると大変なことになる」

「はあ…」

「だからしばらくは、桃は俺がコントロールするからね。興味本位で無謀なことしないように」

「無謀なことって、たとえばなんですか?」

「それを教えちゃったら、意味ないだろ!」


ええ…?

なにを懸念されているのかよくわからない。思わず寄せた眉間のしわを、久人さんが人差し指でつついた。


「約束だよ、いかがわしい情報を鵜呑みにしたり、誰かの面白半分のアドバイスを聞いたりするんじゃないよ」

「はい」

「試してみたいこととか気になることがあれば、俺に言うんだよ」

「はい…?」