「桃、身体柔らかいねえ」


途中、感心したように彼が言うのにも、返事なんてできず。首筋を噛まれては震え、だんだんと、その疼きが全身に広がっていくのを感じていた。

ベッドって、眠るところだと思っていた。

違ったらしい。柔らかいのは、この甘くて激しい衝動を受け止めるためで、シーツやその他、表を覆うものが洗える仕組みになっているのも、つまりはそういうことだ。

よくまあ、そんなことも知らず、彼の腕の中で毎晩すやすや眠れたものだ。

無知な私を、いったいどれだけ愉快な思いで眺めていたんだろう。


「桃…」


そっと呼びかけられて、目を開けた。それまでぎゅっと目をつぶっていたことにも気づいていなかった。

久人さんの前髪は汗に濡れ、鎖骨のあたりも水滴が浮いて光っていた。

どうして目なんかつぶって、こんな色っぽい姿を見逃したのバカ、という後悔と、なまめかしすぎてとても見ていられないという戸惑いが交互に襲う。


「は、はい」

「ちょっとだけ我慢してね」

「えっ…」

「いくね」


え、と聞き返す前に、きつく抱きしめられ、それまでとは比べ物にならないほど強く、深く揺り動かされた。


「あっ、えっ?」

「少し、だから」


食いしばった歯の間から漏れるような声。急に力加減がまったくできなくなったみたいに、軋むほど私を抱く腕。食い込む指。

彼の言ったとおり、それはほんの一瞬のことで、気づけば静寂と、久人さんの呼吸の音が響くばかりになっていたのだけれど。

私は彼の見せた変貌に圧倒され、しかもその変貌が、私のせいであり、私にぶつけることで発散されたという事実に、呆然としていた。


「…桃?」


久人さんが、私の顔をのぞき込む。さっきはなかった、したたるほどの汗をかいている。どうしてそんなことが、こんなに嬉しいんだろう。