「想像した?」
「なにをですか?」
服を脱ぎ捨て、久人さんがベッドに上がってきた。
私はもう、全身脱がされたあとで、裸でシーツの上に横たわるという新感覚に包まれているところだ。
久人さんが手をつくと、身体の横のマットレスがたわむ。
寝室は暗く、廊下のライトが届くだけだ。この部屋に入ったとき、久人さんが『閉めると緊張しちゃうでしょ』と少しだけドアを開けておいたのだ。
そんなに鮮明には見えないとわかっていたけれど、私は綿のブランケットを胸もとまで引き上げた。
私の上に覆いかぶさるようにして、久人さんが顔を見下ろす。
「はじめての瞬間とか」
「あ、うーん…」
両手が頬を挟み、頭をなで、顎をくすぐる。
「しようとしたことは何度もあるんですけど、正直、知識が足りなくて、できませんでした」
「桃っぽい」
くすくす笑いながら、久人さんは私にキスをした。
甘く始まったキスは、だんだんと熱っぽくなり、久人さんから、微笑んでいるようなからかっているような、そんな雰囲気が消える。
いつまでこうしているのかな、と不思議になるくらい、長いことキスをしていた。久人さんはいろいろなキスを知っている。
軽く触れるだけのものや、音がするものや、自分が飴にでもなった気がするような、ひっきりなしにかわいがられてる感じのもの。
それから、深く激しく、奪うようなものまで。
唇を合わせながら、久人さんがブランケットを剥がす。私たちの間を隔てるものはなにもなくなり、私は全身で彼の体温と、重さを受け止めた。
浴びるようなキスを受けた。文字どおり、身体中に。
「あの…久人さん」
「ん?」
「ちょっと、そこは、いたたまれないです」