『遅くなるよ』と電話があったとき、「何時になっても待っています」と答えた私に、久人さんは少し不思議そうな声で『うん?』と言った。


「なにか話でもあった?」


予告したよりちょっとだけ早く帰ってきて、家に上がるなりそう尋ねた。きっとそう考えて、がんばって仕事を終わらせてきてくれたのだ。

他人には、そういう優しさを発揮できるのに。

どうして自分には…。


「はい、お時間ありますか?」

「うん、着替えてくるから、待ってて」


久人さんは寝室に消え、すぐに部屋着になってリビングに戻ってきた。ソファの彼の対面に座ろうとしたら、「え、そんな改まった話?」と驚かれたので、彼の隣に座り直した。


「お義父さまとお話をしましょう、久人さん」

「え?」


私は身体を彼のほうに向け、彼の手を取った。


「まず、直接お話ししましょう。全部それからです」

「全部って?」

「久人さんが想像なさっていることです。お義父さまがどなたかに会いに行った目的も、探していた理由も、私たち知らないじゃないですか。考えるのはやめましょう、帰られたらすぐ、お義父さまたちとお会いしましょう」


案の定、久人さんは困惑の表情で、言葉を失ってしまった。


「…えっと」

「今、お義父さまの息子は、久人さん、あなただけです」

「それは、まあ、あくまで、今は、でさ」

「どうして勝手に、終わってしまうと思うんです?」


私はテーブルから先ほどのお礼状を取り、久人さんに握らせた。怪訝そうにしながらも、彼が便箋を開く。


「これが…」

「最後の文章、わかりませんか、お義父さまのおっしゃりたいこと」