コーヒーだけでも、一緒に飲む習慣をつけておけばよかった。

そうしたら、起こしてくれたかもしれないのに。

ひとりきりのベッドで、そんなことを考え、ため息をついた。




「御園さん、高塚さんの今後のスケジュールって、変わりました?」


お昼前頃、庶務のデスクにいた私に、次原さんが自席から声をかけた。

出社したら、久人さんから【今日も庶務業務でお願い】とのメールが入っていて、かつ彼は午後にファームに来るとのことだった。

オフィススペースの端のほうに、庶務デスクはある。隣り合った島が人事部で、次原さんは普段、そこにいる。


「いえ?」

「おかしいな」


私は首をひねっている彼のもとへ行った。


「どうかなさいましたか?」

「いや、この方ね、高塚さんとじゃなきゃ取引を続けたくないってごねてた、ありがた困ったお客様なんだけど」


説明のとおり、微妙な口ぶりで、届いたメールを見せてくれる。そういうお客様は、実は多い。久人さんがこの会社を去るための"整理"で、もっとも手間取っているのは、その部分だったりする。


「この方がどうか…」

「高塚さん宛てに、来月のアポを入れてきてるんだ。その頃には高塚さんはもう動けないと伝えてあるはずなんだけど」


私は一瞬、なにかの手違いかと思い、確認の連絡をとりましょうか、と申し出ようとした。そしてはっと気がついた。

まさか…。




「うん、言ったよ。もう少しおつきあいさせていただけそうだって」


午後、出社してきた久人さんをすぐに捕まえた。彼は私が予想したとおりのことを、お得意さまに伝えていた。