やっぱりどこかに形跡が残っているんだ。

私は、ごまかそうにもなにをすればいいのかわからず、四つん這いのまま、パンプスを握りしめていた。

千晴さんが玄関に入ってくる。


「桃子…」

「あの、心配してもらうことじゃないの、ちょっと、トラブルっていうか」

「久人さんなのね?」


床にひざをつき、千晴さんが私の顔に手を伸ばした。指が頬から首筋へと動き、それからふと気づいたように、私の腕を持ち上げる。

肘の下あたりが、すりむけて赤くなっていた。


「彼は今いるの?」


千晴さんが声を潜める。私は首を振った。


「出てっちゃったの。どうしよう、私、心配で仕方ないの」

「あんたにそんな傷を負わせた男を?」

「酔っ払ってたの。違う、酔って暴力的になったって意味じゃなくて」


彼女の目つきが険しくなったのを見て、慌てて付け加える。


「なにかがあって、飲まずにいられなかったみたいなの。でもどこへ行ったかわからないの」

「こんな時間に、探しに行ったりしちゃだめよ」

「行こうにも、どこを探せばいいのか…」


また絶望が押し寄せてくる。

つくづく、妻失格だ。掃除洗濯をして食事をつくるだけが妻じゃないでしょう。こういうとき、支えになるために一緒にいるのに。

千晴さんが、持っていた白い箱を足元に置いた。そういえばお菓子を買ってきてくれたと言っていた。

まだ探るような目で、私の全身を確認している。

私は不安になった。