久人さんは私のウエストのボタンを外し、引きちぎるようにファスナーも開けた。

抗議の声をあげようとしたところに、唇が重なってきた。深く合わさって、私の口の中を蹂躙する。手がTシャツの下の素肌をなで上げる。

いつものからかいめいた接触では、絶対に避けてくれていた場所にも、手が触れた。熱い指が、肌に食い込むのを感じた。

思わずそらした喉に噛みつかれる。痛い、と一瞬びくっとしたものの、感じたのは痛みではなく、ざらりと這う舌の感触と、吸いつく唇の柔らかさだった。


「ひ、ひさ…」


桃は首筋が弱いね、とよく久人さんは笑っていた。

弱い、の意味がいまひとつわかっていなかった私は、くすぐったさに逃げ回るだけだった。

今わかった。

唇で食んで、歯を立てて、舐める。そうされただけで、息ができなくなる場所がある。逃げるつもりで顔をそむけても、なんの意味もないどころか逆効果だと、気づく余裕もなかった。


「あ…」


久人さんの重みが、全身にかけられる。押し戻したところでまったくの無駄。

シャツの中を這っていた手が、ふと方向を変えた。胸からわき腹へ、腰へ、形を確認するように、じっくりと移動する。

私はもう一度、身体をひねって抵抗を試みた。無駄だった。

腰骨に辿り着いた手が、前へ回る。指先が下着の縁から滑り込む。耳にかじりつかれた。荒い吐息が鼓膜を打つ感覚に、私は混乱し、頭が真っ白になった。


「久人さん…」


ねえ、こんなのは、違います。

男の人に押さえ込まれると、ここまで動けなくなるものなんだ。いつも、『いい加減にしてください』と私が暴れれば、解放されていた。あれは、手加減をしてくれていたんだ。

今は押しのけようとしても、びくともしない。逆にその手首をつかまれ、床に押さえつけられてしまう。その気になれば折ることさえできそうな握力。

これが男の人の力。


「久人さん」


久人さんの身体は、どこもかしこも熱い。首筋から、香水の匂いがする。

これはもう、着替えようがシャワーを浴びようが、彼の一部になっている香りで、私はこの匂いをかぐと、いつも安心で満たされた。