僕の知らない、いつかの君へ



「さっき話してた映画のことだけどさ」

「えっ」と驚いた顔で俺を見上げる壷井さん。
いきなり目の前に立たれてびっくりしたんだろう。

三時間目の後の休み時間の教室は騒がしい。男女が話しているというだけで、さりげなくちらちらと視線を感じる。壷井さんに話し掛けている俺。なんかあるなこの二人。そんな感じでみんなさりげなく観察だけは抜かりない。特に女子はそういう態度に敏感だ。

「さっき、好きだって言ってた映画だけどさ」

「え、あ、うん」

ぎこちなく頷く壷井さん。さら、と綺麗な黒髪が揺れる。

「その映画に出てくる魚、本物見たことってある?」

頼むから、ないって言ってくれ。

壷井さんが、首を横に振る。

「ううん」

よっしゃきたー!心の中でガッツポーズを決める俺。

「壷井さん、今日、放課後空いてる?」

小さく頷く壷井さん。やった。

「見せたいものがあるから、ちょっとだけ付き合って」

最後の方、声が震えた。壷井さんがまた、小さく頷く。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

中岡が、目を丸くして俺を見ていた。席に戻るとニヤニヤと笑いながら話し掛けて来る。

「放課後デートっすか?」

「バーカ。うるせ」

「七瀬さんはどうすんだよー七瀬さんはー」

「黙れって」

中岡の椅子のケツを後ろから蹴りあげる。
壷井さんは、いまどんな顔をしてるんだろう。