壷井さんに告白をしよう。

そう決心してから一週間が過ぎていた。

この間に三回、俺は壷井さんに話し掛け、ぎこちない会話を交わしている。

どうやら壷井さんは、人が大勢いるところで話し掛けるとあまり目を合わせてくれず、図書室で話したときのようにちゃんとした会話もしてくれないらしい。

何度も話し掛けるうちに、なんとなくそのことが解ってきた。

俺が壷井さんに話し掛けた日のナナの日記には必ずといっていいほど、〈緊張してうまく話せなかった〉とか〈恥ずかしくて目を合わせられなかった〉〈自分が嫌になる〉とあいかわらずマイナス思考の後悔と反省の念が綴られているため、なんだか話し掛けることすら可哀想に思えてくる。

あのレアな笑顔を引き出す為には、やっぱり二人にならないといけない。
何か二人になれる理由はないか、壷井さんをどこかに誘うきっかけはないかと探していたときだった。

いつも通り俺の斜め後ろの席にいた壷井さんと、美術部のおとなしい女子二人が会話しているのを聞いた。
聞いたというより、ほぼ盗み聞きしていたようなものだけど。

「あっ、わたし、その映画好き」

美術部の二人とのなんてことない会話の中で、かなり控え目に発せられたその壷井さんの台詞だけが、俺の耳にはっきりと聞こえた。
壷井さんが好きだと言ったそのディズニー映画は、小さな魚が大活躍するちょっと昔のどちらかというと子ども向けの映画で、最近その続編がテレビ放送されたばかりだった。
重要なのはその映画自体ではなく、その映画に出てくる魚だった。

そして俺は、そのチャンスを逃さなかった。

なんてことない会話を終えて美術部の女子二人が壷井さんから離れたその瞬間、俺は壷井さんの机の前に立っていた。