慌てて壷井さんのいる場所に向かって走り出す。間に合わないかもしれないけど、見失うかもしれないけど、壷井さんの通学路はこないだ送って行ったばかりだからわかる。
駅に向かって走って行けば、ゆっくり歩く壷井さんに追い付けるはずだ。
中庭に面した渡り廊下に砂埃が舞い上がる。そんなところを走ってるやつなんていないから、みんな振り返って俺を見る。だけどそんなこと、今は構っていられない。
「お、慶太くん!」
もう部活は引退する時期のはずなのに、いまだにユニフォーム姿の森田とすれ違う。森田にも、今日は構ってる暇はない。
「ちょっといそいでるんで!」
「眼鏡の女の子なら、裏門から出てったでー」
そのまま立ち去ろうとした俺に向かって、森田がよく通る声でそう言った。
え、裏門?正門じゃなくて?
てか眼鏡の女の子って壷井さんのことだよな?なんで俺が壷井さん追いかけてるって知ってる訳?
疑問符が頭の中に並んで仕方なく立ち止まる。
「なんで俺が眼鏡の女の子追いかけてるってわかったんすか」
森田が嬉しそうににやりと笑う。
「こないだ一緒に帰ってんの見たんや。大事な弟の彼女やねんから、チェックして当然やろ」
「てか、彼女じゃないですから。それにそもそも弟でもないし」
「そんな照れんでええがな」
「彼女、裏門から出てったってほんとですか」
森田はまた嬉しそうに笑って頷いた。
また走り出す俺に「頑張りやー!」と森田が後ろから叫んだのが聞こえた。
走りながらふと、兄貴がいたらこんな感じかなと思ったことは、森田にはもちろん言わないけど。


