七瀬さんがくれたカツサンドは、物欲しそうな視線を送ってくる中岡に「やるよ」と言って譲ってやった。

壷井さんのことが気になって。
ただでさえ、俺の好きな人が七瀬さんだと勘違いしてるってのに、こんなことされたら困る。
せめて中岡にやったことを壷井さんが気付いてくれたら良いけど。

「うわぁ俺、食いかけのほうが良かったな七瀬さんの」

「中岡……お前、きもっ」

食いかけのほうが良かったとか言いながら、さっさとラップを剥がして食い始める中岡は、やっぱりバカだ。

「仲良いねぇ七瀬さんと」

食いながら、そんなことを言ってちゃかしてくるから面倒くせぇなと思う。

「だから、仲良くねぇって」

「またまたぁ。七瀬さんと仲良くなって嬉しいくせに」

「やめろってまじで」

中岡の声が無駄にデカイせいで、壷井さんが勘違いするのは困る。
これ以上、悲しい思いをさせたくないのに。

「七瀬さんとは、なんもねえから」

わざと、斜め後ろの壷井さんに聞こえるように大きめの声で言った。もう、クラスの他の奴や七瀬さん本人に聞こえたって構わない。
壷井さんの誤解が解けさえすれば。