◇
校外学習の課題提出の期限が過ぎ、三日ほどたった日のショートホームルーム。
タケノコが教室に持ってきたのは食堂の裏メニュー、カツサンド十二人分だった。
「わざわざ食堂のおばちゃんに頼んで作ってもらったんだからなー!食ったグループはあとでおばちゃんにお礼を言うように!」
タケノコが声を張り上げる。3つのグループがそれぞれ提出した壁新聞、一番評価の高かったのは予想通り俺たちのグループだ。
見事ひとり一人前のカツサンドを手に入れたわがグループのメンバーは、ほぼ全員がまるで自分たちの手柄みたいに騒いでいる。
他のグループのうらめしそうな視線にちょっと優越感を感じながら、斜め後ろを振り返る。
壷井さんは、微笑んでいた。
みんなもう、きっと壷井さんが課題をやってくれたことなんて忘れてる。だけど、目があった壷井さんは「それでいいの」って顔をしていた。
たぶん俺だけが、壷井さんの気持ちを知っている。せめて俺と一緒に作ったものが評価されたことを、喜んでくれていたらいいなと思う。
ショートホームルームが終わると速攻でカツサンド試食会が始まった。
いつもならみんなすぐに帰るのに、なんとなくすぐには立ち上がらない雰囲気は、ちょっとした祝勝会ムードってところだろうけど。
「やっぱうめえ」
ほとんどなんにもしてない中岡が早速カツサンドにがっついている。ソースの匂いに釣られて俺もカツサンドのラップを剥がす。
壷井さんは、と気になってちらりとまた振り返る。
壷井さんは、食べていない。食べてないけど、やっぱりちょっと嬉しそうな顔をしてる。良かった。壷井さんが笑っていたら俺も嬉しい。
「水嶋くん!」
と後ろから名前を呼ばれた。七瀬さんがニコニコしながらこっちに向かって歩いてくる。
「水嶋くん、わたしダイエット中だから、これあげる」
「あ、ありがと」
差し出されたカツサンドを素直に受けとると、中岡が口を開けたまま俺に冷たい視線を送ってくる。
「いいよー食べて食べて」
目立つ女子たちはみんなダイエットだとかいらないとか言ってそのへんの男子にカツサンドをあげている。カツサンドは食べない癖に、毎回休み時間にみんなでお菓子を交換したりしてる女子はやっぱり理解不能。カツサンドのほうがよっぽどうまいのに。


