ナナからのコメントを半分まで読んだあたりで、もう限界だと思った。
最後まで読まなくたって解る。たぶんきっと間違いなく、ナナは壷井さんだった。
俺は忘れていた。
シャーペンのことも、壷井さんが隣の席に座っていたことも。
1年の頃、確かに借りたシャーペンを壊した記憶があったし、それを買って返そうと思った記憶もある。
壊したシャーペンに似たシャーペンの新品を、たまたま姉貴の部屋で見つけて勝手に持ち出して、あたかも買ってきたみたいにその子に返したことだって、いまやっと思い出した。
その目立たない女子は、壷井さんだった。
俺は忘れていた。
壷井さんと話したことも、断られなさそうだからって理由でシャーペンを借りていたことも。
テストのときはアホな中岡に毎回答案を見せてやっていたことも、いつも隣で壷井さんがそれを見て見ぬふりをしていてくれたことも。
俺は壷井さんを気にもしていなかった。
その頃の俺は周りの奴らと同じように、クラスで一番か二番目に可愛い女子に夢中で、卒業前に告白された中学の後輩とたまに適当に連絡を取り合ったりしていて、そんな俺が、壷井さんの優しい視線に気がつくはずもなかった。
だから壷井さんに、買ったふりして返した姉貴のシャーペンを渡したとき、「ありがとう、大事にする」ってなんだかやけに嬉しそうに言われたことすら忘れていたんだ。
俺は、きっと壷井さんを傷つけてしまったんだろう。
一度も話したことないよな、なんて。


