「また、話せないかな……?」

壷井さんが、えっという顔で目を見開いた。化粧とかなんかしてなくても、眼鏡の奥で、きらきらとしてる綺麗な目。

「……えっと、ああそうだ、今度ジュースでも奢らせてよ。課題のお礼に」

苦し紛れにようやく出た言葉に、壷井さんの顔が緩んだ。いつもは彫刻みたいに無表情で、だからこそちょっと崩れただけでものすごく魅力的な表情に見えるんだ。

「嬉しい」

改札の向こうで手を振る壷井さん。心の中でガッツポーズして、俺も手を振る。明日も普通に学校で会える。同じクラスにいるのにどうしてこんなにも別れが惜しいんだろうと思った。
駅構内のあまり大きくない古いポスターに、黄色のムーンフィッシュの写真が使われている。ちょっと色あせたそれは、きっと誰にもムーンフィッシュだと気付いてはもらえないだろう。
壷井さんの後姿はきれいで、俺はこの景色をなぜか一生忘れないような気がした。