「そうなんだ。水嶋君がそんなこと言うなんて、意外」
壷井さんはふふっと、また口を開けないで笑う。
「そうかな」
意外かどうかはわからないけど、少なくともこんなこと、他の誰にも言ったことがないし、これからも言うことはないと思う。
読んだかどうかわかんない手紙の返事を待つことがわくわくするなんて、壷井さん以外の誰にも恥ずかしくて言えない。
「意外だよ。水嶋君って、そういうこと言いそうじゃないもの」
でも、と俺は気がついた。
そうじゃない。壷井さんの他に、まだいたんだ。俺がこんな話ができる相手。
壷井さんを駅の改札まで送っていくと、駅構内にいた同じ学校の生徒がちらちらとこっちを見るような感じがした。たぶん、俺たちが付き合っていて、彼女を駅まで送りに来たとか思われているんだろう。
「送ってくれてありがとう」
改札の前で立ち止まって、丁寧にお礼を言って頭を下げる壷井さん。
「こちらこそ、課題、なんか押し付けちゃってごめん。俺も結局あんま役に立ってないよな」
「そんなことないよ。嬉しかった」
壷井さんの笑顔は俺だけの特権みたいに思ってしまうのは、やっぱり勘違いだろうか。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
壷井さんと話すのは楽しかったし、図書室で一緒に作業をするのも楽しかった。
もっと壷井さんと話がしたい、強烈にそう思ったのは、やっぱり『読んだかどうかわからない手紙』のあたりから。それまでも、なんとなく居心地がいいなと感じてはいたけれど。
「あ、あのさ!」
改札を抜けてしまった壷井さんが、俺の声に振り返る。


