「じゃあなんで」

なんで、なんなんだろう。自分で聞いておいて、俺はその『なんで』がなんなのかわからなかった。

「伝えたいひとにはきっと伝わるって、信じてるから。読んだかどうかわからない手紙の返事を待つほうが、わくわくするって思わない?」

壷井さんは、ちょっと笑った。
微笑んだという感じのほうが正しいかもしれない。

読んだかどうかわからない手紙の返事を待つほうが、わくわくするって思わない?

思う。
俺も、そう思う。

運動部よりちょっとだけ先に帰るブラバン部とか、俺たちみたいに残って自習していたのかもしれない特進クラスの生徒とか、そういうやつら、俺たちと同じ制服を着たやつらがちらほら見える、最寄り駅からの電車組の通学路。
俺は家が近いから、チャリ登録もしてない珍しい徒歩通学で、正門からじゃなく裏門からの登校だから、この道を通るのは初めてだ。

「おれも、そっちのほうが好きかな」

「そっち?」

「読んだかどうかわかんない手紙とか。届いたかどうかわかんないメールとか。出てもらえるかどうかわかんない電話とか」

言いながら、何いってんだろうと思った。ちょっとくさくないか、俺。