「いつメッセージを読んでいつ返事をするかなんて自由でしょ?いつ誰に連絡したって自由でしょ?わたしにはわたしのペースがあるって思うから。それに、知りたくない情報まで全部入って来るのが嫌だから」

壷井さんと校庭を横切る。野球部の一年生が後片付けをしていて、まだ端のほうにボールが転がっている。

おとなしくて、頭がよくて、きっちりと崩さずに制服を着て、眼鏡が似合う壷井さん。
みんなに押し付けられた仕事でも、嫌な顔ひとつせずに引き受ける壷井さん。たまにグループから外された女子とかに隣に来られても、受け入れて一緒にいる壷井さん。そいつがまたすぐに別のグループに入って都合よく離れても、嫌な顔をしない壷井さん。

壷井さんの意見は、正しかった。
ベルの時代に壷井さんがいたとしたら、壷井さんがベルに助言をしたとしたら、ベルは電話を発明しただろうか。世の中に出しただろうか。いつかこんな世の中になるのなら、発明しても、自分の大切な人とだけ、こっそり使ったんじゃないだろうか。

「壷井さんはさ」

隣を歩く壷井さんの綺麗な横顔を眺めながら言った。ひんやりとした夜の空気がまとわりついて、日が暮れた校庭に、壷井さんの黒くて長いまっすぐな髪はとてもよく似合う。

「みんなの仲間外れになるのがこわいとか、思わないわけ?」

「こわいよ」

意外にも、壷井さんは即答した。正門から帰るのは久しぶりで、ここから十分くらい歩くと壷井さんが電車に乗るはずの最寄り駅がある。