「そういうのやってないから」
壷井さんはさらっと答えて立ち上がる。どういうことだ。って考えるけど、答えはひとつしかない。
「え、じゃあ、壷井さん連絡とかどうしてんの?」
「別に問題ないよ。メールと電話あるじゃない」
「え、でもさ、メールとメッセージは違うじゃん」と俺はちょっと反論する。俺も立ち上がって壷井さんと並んで図書室を出る。丸めた模造紙がちょっとじゃまだけど、これは俺たちの努力の結晶だから一応大切に扱う。
「え、え、じゃあさ、Facebookは?Twitterは?mixiは?インスタは?」
壷井さんは首を横に振る。
「ええ嘘だろ?アプリなんかすぐダウンロードできるしタダなのに。なんでやんないの?」
壷井さんは俯いて、ぽそりと言った。
「なんか、いやなの」
すごい抽象的な理由になんだかぴんとこない俺。
みんなの連絡のツールは今では基本これだ。
FacebookだってTwitterだって、今だれが何をしてるかとか一目瞭然で、同窓会とかしなくてもみんなずっと繋がってるような感じがして。発信こそしてない俺でも登録だけはしててみんなの状況をたまに眺めたり。
タダだし便利だから使って当たり前みたいに思っていた。まさかやってない人がいるなんて、しかも高校生で。なんだかちょっと信じられない。
「なんかって何」
渡り廊下を並んで歩く。日が暮れた中庭はなんだかひんやりと静かで、いつもと違う場所みたいに見える。校庭から、体育館から、部活終わりの生徒が行き来するけれど、だれも俺たちに見向きもしない。みんな汗びっしょりで、疲れていて、でも清々しい顔をしている。


