「わかる。先生、意外とみんなのことよく見てるよね。あんなゆるい感じなのにクラスがバラバラにならないし」

「ああ、そういや俺も、なんでか知らないけどタケノコに、進路考えてないだろって言われたことあるんだよな。なんでわかるんだろうってびっくりした」

「そうなんだ」

「ああ、うん。ていうかさ、こうやって話すの初めてじゃない?」

「え?」と目を丸くする壷井さん。ちょっとだけ首を傾げると、長い黒髪がさら、と揺れる。

「俺と壷井さん。ちゃんと話したことなかったじゃん」

「あ……うん、そうだね」

「一年のときも同じクラスだったじゃん、だけど話したことなかった」

壷井さんがちょっとだけ、俺から目をそらして下を向く。あれ、なんかまずいこと言ったか俺。

「……あ、もしかして、話したこと、あった?」

壷井さんが小さく「うん」と頷いた。しまった。ひどいこと言っちゃったなと反省する。でも気になる。いつ、どんな話をしたんだっけ。

この前の図書室と、今日。壷井さんとふたりで話してみた印象は、何気ない会話のやり取りがスムーズで、嫌な感じとかひっかかる感じがまったくない。一言でいうと、心地いい。

だからもし、話をしたことがあるなら覚えていてもよさそうなのにと俺は思ったわけだけど。

「……ごめん、覚えてない。なんの話したんだっけ」

「いいの。忘れてくれてるなら、わたしはそのほうがいいから、大丈夫」

「何それ、余計に気になるんだけど」

壷井さんはなぜか恥ずかしそうな顔で俯いた。それ以上聞くのが可哀想になって、話を変えるつもりで思い切って言った。

「外、暗くなってきたからどっかまで送ろうか」

壷井さんがびっくりしたように顔を上げた。