「ありがとうとかなんでだよ。壷井さんのおかげでみんなの課題がうまく出来たんだからさ、むしろみんなが壷井さんにお礼言わないとじゃん。あ、俺も含めて」

なんか早口で照れ隠しみたいになってしまった。

「よし、完成」

壷井さんが全部記事を貼り終えた模造紙を、両手で広げて掲げて見せた。俺の言葉に答えない壷井さんもきっと、たぶん照れくさいんだと思う。
だれかにありがとう、とか面と向かって言われるのは、俺も苦手だ。

「どうかな」

「完璧。文句なしで俺らのグループが優勝だな」

「優勝とか、そんなのあった?」

壷井さんがふふ、と口を開けずに小さく笑う。

「いいじゃん、優勝は優勝だよ。あ、ほらタケノコがご褒美あるって言ってたじゃん」

「そういえば、そんなことも言ってたかな。ていうか、前から思ってたんだけどタケノコって武本先生のこと?」

「そうだよ。滑舌悪いから言えてないよな武本って。でもそこも含めてまあ、愛をこめて呼んでるっていうか」

壷井さんがまた、ふふっと笑う。

「愛を込めて、なんだ。そんな風に言うの、水嶋君くらいじゃない?」

「そうかな?まあ俺は好きだから、タケノコのこと」

「わたしも好きだよ」

好きだよ、と言われてちょっとどきっとしてしまう俺。いやいや、好きってタケノコのことだから。勘違いすんなよ俺の脳みそ。

「いいやつだよな」

冷静に返事をしたつもり。だけど頭の中で繰り返される壷井さんの『好きだよ』。