細くて白い、壷井さんの指先が、A4の用紙のしわをすっと伸ばしていく。模造紙に丁寧に貼り付けられた写真や記事。
俺と壷井さんの二人で作った壁新聞は、手書きで模造紙に直接っていうやり方で作るものより断然完成度が高くて我ながら嬉しくなった。
これなら他のグループには絶対負けないはずだ。
「いいじゃん、すげえ良くない?!」
ちょっと興奮ぎみな俺の問いかけに、壷井さんはふふっと嬉しそうに笑った。
「うん。いいと思う」
「だよな?!良いよな?!苦労した甲斐あったよな。って、苦労したのはほとんど壷井さんだけど」
「そんなことないよ」と壷井さんは真剣な顔で答える。
「水嶋くんがいてくれなかったら、わたし、どうしていいかわからなかったから。一人でやるって決めてたけど、ほんとは不安だったし、なのに誰にも手伝ってって言えなかった」
「だから」と、壷井さんが俺を見る。眼鏡の奥の切れ長の目。マスカラとか付けまつげとか、二重テープとかのついてない、綺麗な目元。
そういえば、普段はコンタクトって言ってたはずなのに、壷井さんはこの前の図書室のときから、ずっと眼鏡をしてきている。もし自惚れているんじゃなかったら、それって俺が眼鏡が似合うって言ったから?まさかね。さすがにそれは、調子に乗りすぎだ。
「ありがとう、水嶋くん」
壷井さんが、笑っている。
まるで眼鏡をかけた聖母マリアみたいな壷井さん。
なぁ、と俺は心のなかで壷井さんに聞く。
壷井さんは、ナナだよな?


