キーボードを叩きながら、これってもうほとんど壷井さんのことだと思った。

ナナのコメントの返事を書いているはずなのに、ナナに宛てて書いているのか壷井さんに宛てて書いているのか途中からわからなくなっている。

壷井さんがナナだと確定した訳でもないのに、いつの間にか頭の中ではナナと壷井さんがイコールで、壷井さんに言ってあげたかったことをナナに向けて書いている。

ナナにしろ、壷井さんにしろ、どちらも誠実で真面目なキャラクターだけど、たぶんいつの間にか嫌なことを押し付けられちゃう損なタイプの人間だ。
いくら我慢が美徳だっていっても、自己主張せず我慢ばかりしていたらストレスは溜まるいっぽうだ。

明日はバイトも休みだから、壷井さんに声を掛けて図書室で壁新聞の仕上げをやってしまおう。ついでにまた、それ以外の話とかも出来ればいいな、また笑ってくれたらラッキーなんて思う俺。
だって壷井さんの笑顔なんてちょっとレアだし、めったに見れないし。
それに文章が上手くて手抜きをしない、それでいて仕事が速い壷井さんと作業するのはまったく苦にならない。むしろ楽しいと思うくらいだ。

「同情されて優しくされるなんてずるい」
と七瀬さんは言ったけど、俺は決して壷井さんに同情した訳じゃない。優しくしてるつもりもない。
もしナナが壷井さんだったとしたら、やっぱり俺は彼女に「頑張らなくていい」と言ってあげたいと思った。