「途中まで、一緒に帰ってもらえない?」

七瀬さんはいった。「だめかな?」と俺の顔を下から覗きこむように見上げるその表情には、断られる恐怖や緊張感のようなものは感じられない。

「……いいけど」

俺の返事に嬉しそうに笑う七瀬さん。

「良かった。じゃあ行こ」

くるりと俺に背を向けて歩き出す。
七瀬さんはまるで前にもこんな風に一緒に帰ったことがあるみたいに自然に、ふわふわの髪を揺らしながら下足室に向かう。


七瀬さんは可愛い。

というのは俺のクラスの男子生徒全員の共通認識だ。

女子のナンバーワンというのはそういうもので、言うなれば不動の安全パイ。
「お前のクラス可愛い子いる?」なんて他のクラスの奴から聞かれたとき用の模範解答だ。