〈〇月〇日

好きな人に、好きな人がいる。ってことに気付いたのは、つい最近。

彼女はクラスで一番の美人で、わたしなんかとは比べ物にならないくらい魅力的な女の子。
彼と彼女が一緒に帰るところを目撃しちゃったのは、やっぱりわたしがいつも、彼を目で追っているからなんだと思う。
もしふたりが付き合うことになったとしても、告白どころか自分から彼に話しかけることすらできないわたしには、悲しむ資格もないんだけど。

ミキさんがブログに書いていた、アカヒレの話。
わたしもアカヒレみたいに強くなりたい。
もしわたしにもっと勇気があれば、彼に自分から話しかけられるのに。

彼女になりたいなんて贅沢はいわないから、彼ともっと話が出来るようになれたらいいのにな。〉


ナナの日記は、どこかから見つけて添付したらしいアカヒレの写真で締めくくられていた。

ナナの好きな人に、好きな人がいる。

ナナが悲しい顔をしていることを想像すると、なぜか俺まで悲しい気持ちになってしまった。

俺の想像の中のナナは、いつの間にか壷井さんそっくりな女の子になっている。
ずっと前からナナの顔を勝手に想像して楽しんでいたはずなのに、その顔はすっかり忘れて壷井さんに入れ替わっているのだ。

自惚れているように思えて仕方がないけれど、もしナナが壷井さんなら、壷井さんの好きな人がもし俺なら。
彼女の中で、俺の好きな人はひょっとすると七瀬さんってことになっているのかもしれない。
もしそうだとしても、その勘違いを否定する手段はいまのところ無い。
ミキがナナに対してそのことを否定するのもおかしいし、俺が壷井さんに直接それを伝えることはもちろん出来ない。
『ミキ』が俺である限り、俺がナナと、直接繋がることは出来ないのだ。