「お邪魔しました。また遊びに来るね」

「ああ、ぜひともおいで。女子高生の友達も大歓迎だよ」

七瀬さんにむかって店長がにこにこ顔で手を振っている。俺もいちおう、店長と一緒に手を振る。七瀬さんの後姿を見送りながら、ようやくいつもの姿を取り戻した店内にほっとする。

「はあ」

思わずため息が漏れてしまった。
それを聞いた店長がぼそっと、特に俺に向かってというわけでもなく言った。

「今どきの女子高生って感じで可愛いけどなあ。慶太のタイプではないだろうな」

「へ?」

「ん?違うか?もしかして好きなのか?だったら意外だなあ」

「……いや、好き……ってことはない、です……」

初めて口にした本音だった。なんか違う、とかではなく、好きってことはない。
俺は、七瀬さんを好きな訳じゃないってことだ。

「だろうなあ」

店長はくくっと笑いを堪えている。

「なにが面白いんすか」

「いやいや、すまんすまん」

「笑ってるじゃないっすか」

「いやいや、あまりにもなあ、なんかこう、慶太とは噛み合わない感じだな。違うか」

「まあ……、そんな感じです」

「だろうなあ」

「……はい」

「可愛いんだけどなあ」

「……はい」

店長はまた笑う。俺は店長に見透かされたような気持ちになって、なんだかものすごく恥ずかしかった。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろなんだか清々しい気さえした。
いつも通りに戻った大好きな場所で、いつも通りにパイプを動かす。砂利やソイルの隙間に落ちた餌の残りや魚たちの排泄物を綺麗に吸い取ってやると、この水槽の生きものたちに俺は必要とされていると感じた。