イメージと違う、という七瀬さんの呟きに反応したのは店長だった。
「もっと、生臭いとか、汚いとか、怖いとか、そういうイメージだったんじゃないかな。昔の金魚の水槽みたいな感じを想像してたんだろ。よくいるんだよなあ、夜店の金魚を死なせちゃったトラウマで魚飼えなくなっちゃうやつ。うちの店はそういうのとは違うだろ?僕は苔だらけの臭い水槽のイメージを変えたくてね。透明な水と、豊富な水草と魚でひとつひとつの水槽をデザインしてる。水槽はね、小さな芸術なんだよ」
七瀬さんは店長の話を聞いているのかいないのか、「うわあ、綺麗」なんて言いながらどんどん店の奥へと進んでいく。
「一通り見学したら、帰ってくれる?俺もいちおうバイトしに来てるんで。冷やかしのお客さんは困るんだよね」
「いいじゃないか。冷やかし大歓迎だよ。とくに可愛い女子高生はね」
店長は笑っている。たぶん半分は本音だ。店長の言う通り、客の多くないアクアリウムショップには冷やかしの客でもいないよりはましで、自分の作品をひとりでも多くの人に見てほしい店長としては、若い女の子が店に来てくれただけで嬉しいってことなんだろう。
だけど俺は、正直言って困る。七瀬さんが店にいるとなぜか落ち着かない。
こんなにも好きなものに囲まれて働いているのに、いつものペースでいられなくなる。
残念だけど、それは七瀬さんと俺とが根本的に合わないということの確固たる証拠だと思う。


