少し細い路地を入ったところに、『タートル』の看板がある。
入口の狭い、個人経営の理髪店くらいのサイズの小さな店だから、普通に歩いていたら、特にライトアップしていない時間帯の昼間は、気付かないで通りすぎてしまいそうだ。苔の発生を防ぐため、水槽のあるスペースは日光が入らないようにしているから余計なのだろう。

「水嶋くん、バイト先まで魚屋さんなの?!」

目を丸くする七瀬さん。

「魚屋さん、じゃないから。アクアリウムショップだから」

「おかえり慶太。……あれ、そこの可愛いお嬢さんは、もしかして慶太の彼女か」

さっそく店長が顔を出す。

「お疲れ様です。あ、いや、違います」

「友達です、友達!……あ、えっと、初めまして。同じクラスの七瀬です。今日は無理矢理、水嶋くんに付いてきちゃいました」

七瀬さんが愛想よく、ぺこりと頭を下げると店長はみるみる上機嫌になった。

「おおいらっしゃい、入って入って!」

え、店に入れるのかよ、とぎょっとする俺を尻目に、七瀬さんは「いいんですかぁ?わぁありがとうございますー」なんて言いながら、嬉しそうに一緒に店に入って来る。

「魚とか爬虫類とか、嫌いなんじゃなかったっけ」

ちょっとむかついた俺が言うと、七瀬さんは「それはそうだけど」と答えながら店の中をぐるりと見まわした。

「だけど、ここはなんかイメージと違うなぁ」