放課後、いつもの渡り廊下で七瀬さんに捕まった。

「水嶋君、忘れたふりしてひとりで帰ろうとしてたでしょー」

図星。
朝の約束を忘れたわけではなかったけど、なんとなくこのまま帰っちゃってもいいかなと思っていたところだ。〈いいよ〉とは言ったけど、今日も教室で喋るタイミングはなかったし、七瀬さんもひょっとしたら忘れてるんじゃないかなんて思っていた。

「俺のバイト先、七瀬さんのバス停より先だけど、わかってる?」

「大丈夫、知ってるよ。一緒に歩いて、水嶋君と話したいだけだから。迷惑?」

迷惑かどうかなんて聞かれてはいそうですなんて言えるはずがない。しかも相手は七瀬さんだ。

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、行こ。バイト遅れちゃうよ?」

「ああ、うん」

やっぱり今日も七瀬さんのペース。
森田篤といい七瀬さんといい、自分に自信のある人間てやつは他人に拒絶されることが怖くはないんだろうか。

軽やかに歩く七瀬さんから、半歩下がって俺が歩く。前は七瀬さんと歩くことがちょっと誇らしかったけど、今日はなんとなくあんまり誰かに見られたくないような気がした。

「水嶋くんってさ」

「え、何」

「水嶋君って、あんまり他人に興味ない?それとも、わたしに興味ない?」

怖いくらいの直球ストレート。なんでいきなりそんなこと聞くかな。

「なんでそう思うわけ」

「だって、そんな気がするから。あ、でもそれが嫌だって訳じゃなくて、むしろそこがいいんだけど」

七瀬さんは振り返る。早く来てよって顔が言っている。だけどやっぱり、隣に並ぶのはなんか気が引ける。