どこの教室もざわざわと騒いでいるのが聞こえてくる。坊主頭が全員寝転び終わったとき、ようやくこれが何かの文字を表しているのだと気が付いた。新館側に向かって書かれているからこっちから見ると逆向きのカタカナ。頭の中でひっくり返して右側から順に読んでいく。

「ミ、キ、チャ、ン……?オメデ……」

それが〈美貴ちゃんおめでとう〉だと気付いたとき、グラウンドの端から同じくユニフォーム姿の誰かがその人文字めがけて走って来た。

完成した人文字の左端に立つ、堂々とした後姿はどうみても森田篤だ。

「せーのっ、美貴ちゃーん!誕生日おめでとうございます!」

森田の掛け声で、寝転んだ人文字が森田と同時に全員で叫ぶ。

新館のどこかから恐らく見ているに違いない姉貴のひきつった顔を想像して、つい笑いがこみ上げる。まさかサプライズってこのことなのか。
野球部の後輩まで巻き込んで、学校中に響き渡った姉の名前と一瞬で知れ渡った誕生日。

「なあ慶太、もしかしてこれってお前の姉ちゃんのことじゃねえ」

中岡が横で半分笑いながら言っている。

「んなわけないだろ」

俺はそう答えたけど、中岡はまだ笑っている。

一生忘れられない誕生日。確かにそうなったに違いない。スポーツバカはやっぱりバカで、だけど俺にはこんなこと、一生出来ない。度胸もないし、恥ずかしいし、後輩とかを巻き込む力だってない。だからやっぱり森田は凄いし悔しいけれどカッコいい。姉貴が喜んでいるかどうかは別だけど。