美貴はもうとっくに家をでているらしかった。

同じ高校に通ってはいるけれど、一度だって一緒に登校したことはない。とくに仲が悪いわけでもないけど、高校生にもなって姉弟一緒に登下校するほど仲が良い訳でもないってことだ。

歩いて通える距離にある高校だから、それだけ。べつに美貴がいるからって受験した訳じゃない。
今日が姉の誕生日だってことも、森田からメッセージが来るまですっかり忘れてしまっていた。

歩きながら、もう一度さっき七瀬さんから来たメッセージを読み返す。


〈じゃあ、バイト先まで、一緒に行ってもいい?〉

あの七瀬さんがそこまでして俺と帰りたい理由ってなんだろう。
特にものすごい目立つ訳でもなく、運動部のキャプテンとかでもない普通の俺と、七瀬さん。
どう考えたって釣り合わない。例えば相手がそう、森田篤とかなら話は別だけど。

〈いいよ〉

これ以上、断る理由が思いつかなかった。悩んでいるだけなのに、既読無視とか思われるのも嫌だった。

〈よかった!ありがとう!じゃあまた、放課後にね〉

同じクラスなのに、メッセージは来てもクラスで二人で話すことはほとんどない。放課後、一緒に帰る、それだけだ。