〈じゃあ、バイト先まで、一緒に行ってもいい?〉

〈お年玉?何言ってんねん弟くん。モノより思い出や!美貴ちゃんに一生忘れられへん誕生日をプレゼントしたいと思ってる!乞うご期待!〉


もう家を出なきゃいけない時間だってのに、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

こんなとき、メッセージとか既読とか、そういうのが全部めんどくさくなって、いっそこんなのなけりゃいいのになんて思ってしまう。本当になかったら多分かなり困ったことになるんだろうけど。

電話を発明したベルは天才だったかもしれない。
だけど自分の発明がきっかけで、まさか頭の中や時間まで拘束されるようになるなんて、いくら天才のベルでも考えつかなかったんだろう。

とりあえず通学バッグに携帯充電器を放り込み、昨日脱いだそのままの制服をかぶって家を出た。

今日、壷井さんに会ったらなんて言おう。
壷井さんはナナかもしれなくて、でももしナナが壷井さんだとしても、『ミキ』が俺だなんてわかるわけがない。

もし壷井さんがナナだったとして、もし壷井さんがナナで俺のことが好きだったとしたら、『ミキ』である俺に自分の日記を読まれていたと知ったらどう思うんだろう。

もし俺が逆の立場だったとしたら、恥ずかしくて死にたくなるかもしれない。
第一、壷井さんがナナだという可能性は百パーセントではないわけで、もし俺が『ミキ』ですなんて壷井さんに言ってしまってナナがあかの他人だったらそれこそ、俺は相当変な奴ってことになってしまう。

いろいろ考えた結果、俺は『とりあえず何も言わない』ことに決めた。

まだ確定していないんだから、焦ることはない。壷井さんがナナだという確信が持てたらその時に、またどうするかを考えればいいのだ。