「かわいい」
俺の感想にちょっと嬉しそうな壷井さん。
こんな顔もするんだ、と俺までちょっと嬉しくなる。
頼んでもいないのに次々に犬の写真を見せてくる壷井さんがだんだん犬に見えてきて、俺はおかしくなってひとりで笑った。
笑いながら、なんかこの犬どっかで見たことあるなと思う。
なんだろう、どこで見たんだったっけ。
可愛いし、よくいる種類なんだけど、すごく最近見たような。
「あ」
俺がつい呟いてしまったから、壷井さんは「え?」という顔をした。
「ごめん、なんでもない。見せてくれてありがとう」
そう、思い出した。
この犬、あの犬と同じだ。
「ねえ、壷井さんて、下の名前なんていうんだっけ?」
「え?」
壷井さんがスマホをポケットにしまいながら不思議そうな顔で俺を見る。
そういえば、知らないんだよな、壷井さんの名前。
「菜々子。菜の花の」
「菜々子……」
さすがの俺も驚いた。ナナって、名前まで一緒じゃん。
同じ茶色の丸っこい犬に、ナナの名前。
「……あ、じゃあ、犬の名前は?」
「ハチ。あ、恥ずかしいから笑わないでね」
思わず椅子ごと後ずさる俺。
脳内にフラッシュバックする、『ナナ』のブログのトップ画面。丸っこい茶色い犬の画像の下にしっかり『〇月〇日、hachi』と記録されていた。ナナとハチ、なんてちょっと笑える。そう思ったこともしっかり記憶に残っている。
これってただの偶然じゃないよな。でもやっぱり偶然かもしれない。
ナナとハチなんてよくある組み合わせだし、ブログをやってて犬を飼ってるナナなんて、日本に山ほどいるんだから。


