「急に呼び出して、ごめんな」

「はい、いや、いいっすけど」

デカイ体の森田の後を追いかけるようにして付いていく。昼休みの中庭は眩しくて、指定のシャツにベストだけでは少し肌寒い。

俺と同じ格好をしてるにも関わらず、森田はちっとも寒そうには見えない。
ウエストに近いところでベルトをしてもダサくならないのは多分、尻の筋肉があるからだ。

「実は俺、美貴ちゃんのことが好きやねん」

唐突に、そしてその、大きな体つきに似合わないはにかむような笑みを浮かべて彼は言った。

「はぁ」

そこまで驚くようなことでもなく、かといってわざわざ大袈裟なリアクションをするべきことでもなかった。俺の口からは呆れたようなため息のようなものが漏れただけだった。

「ごめんな、弟のきみにこんなこと」

彼は申し訳なさそうな顔で言った。

美貴というのは俺の一歳上の姉の名前で、姉は同じ私立高校三年の特進クラスに通っている。大学に付属したマンモス校であるが故に、同じ学校に通っていても普段姉と出くわすことはほとんどない。


「はぁ」

俺の口からはやっぱりこんな声が出ただけだった。他になんと言えば良いのか、正直なところまったくわからなかった。

「もう何回も、告白してるんやけど、ずっと無視や」

「……はあ」

「俺、美貴ちゃんに嫌われてるんやろか」

「…どうっすかね…わかんないっすけど…」

真剣な表情で語りかけてくる彼に悪いとは思うけれど、きっとそういうことなのだろう。
さすがに「でしょうねー」とは答えられないし、かといって、希望を持たせるようなことも言えない。

ただひとつ、俺が知っていて確実に言えること、それは、姉の美貴は頭の悪い男と坊主頭が嫌いだということだ。

けれどそれは、目の前の彼にとっては致命的なことに違いない。