ナナからの返事は、ちょっと嬉しそうで、やっぱりなんだか真面目でお堅くて、でも昨日よりはリラックスしてくれているような感じがした。

『ミキ』が本当は高校生の男だって知ったら、ナナはどう思うんだろうとふと考えた。
だけど、こっちだってそれは同じ。『ナナ』が女の子だとは限らないし、もしかしたら俺よりもかなり年上だったりするかもしれないし。
俺がこんな風にナナの正体を勝手に想像しているように、ナナのほうだって、ミキの本当の姿をあれこれ想像しているのかもしれない。

俺はその後も、学校にいるあいだはコメントの返事を返すことはせずに、どんなことを返事で書こうか考えていた。
ナナがどこの誰かもわからない俺に、友達にも言えないような悩みがあると告白してくれたように、俺もナナになら話せることがあると思った。

放課後の渡り廊下は、少し湿った空気に包まれている。昼休みに降ったにわか雨が中庭の土に染み込んでいて、そのおかげで今日は砂埃が舞い上がらない。

「水嶋くん」

聞き覚えのある声に振り返ると、昨日と同じ場所に七瀬さんが立っていた。

「昨日はごめんね、水嶋くん」

「え、ごめんって…」

七瀬さんに謝られるとは思わなかった。どっちかと言うと謝るのは俺のほうだ。一緒に帰って欲しいと言われて断った訳だし。

「……わたし、魚が嫌いだって訳じゃないよ。水嶋くんが魚、飼ってるなんて知らなかったから」

「ああ、いいよ別に、そんなことで謝んなくても」

七瀬さんは、悪くない。爬虫類や魚が嫌いだとしても、それは七瀬さんのせいじゃない。気持ち悪いと思うのは、本人の自由な訳だし。