「そうだ、壷井さん、文章得意だよね」
あっと思いついたように、七瀬さんがいった。
「だよね!読書感想文とか表彰されたりしてたよね中学んとき」
七瀬さんの一声で、周りを囲んでいた女子がわっと盛り上がる。
急に話を振られた壷井さんは、えっという感じで顔を上げる。
七瀬さんの周りに集まっていた女子の固まりから、少し離れたところ、俺の席の斜め後ろ。自分の席に黙って座っていた彼女に、一気にグループの視線が集中する。
壷井さんはおとなしい。
静かで、主張しない性格という感じ。だから彼女に視線が集中するなんてことは、普段はまずあり得ないことだ。
「じゃあ、リーダーは壷井さんに決定で!」
調子に乗った誰かが言った。決定でって、まだ本人に許可得てないじゃんか。
壷井さんはなんにも答えない。
言い出しっぺの七瀬さんは、その成り行きをニコニコと見守っている。みんな内心、ラッキーだって思っているはずだ。
騒いでいた奴らは本人が「うん」とも言っていないのに、「良かったねー壷井さんいて」なんて言いながら散っていく。
「壷井さんいいの?嫌ならはっきり言えば」
すぐ近くにいた壷井さんに、思わず聞いた。壷井さんは、ちょっと驚いたように俺を見上げて、少し考えてからいった。
「いいの。ひとりでなにかするの嫌いじゃないから」
彼女はそう言って、また下を向いてしまった。
壷井さんの黒くてさらっとした真っ直ぐな髪が、彼女の顔を隠している。


