なんとなく、口から勝手に出た言葉。だけど中岡はそれを聞き逃さなかった。

「違うって、何が」

「いや、俺は、七瀬さんはなんか違うかなって」

「一緒に帰っといて何が、違うかなーだよ!いい加減怒るぞ俺も」

「うるせえな。昨日が最初で最後だって。もうボディーガードも辞職したし」

「え、嘘だろ?!もったいねぇー!」

中岡が大袈裟に天井を仰いだところで担任が教室に入って来た。

窓際に集まっていた目立つ女子も、好き勝手に騒いでいた男子もすっと席に戻る。
一年の頃は調子に乗って担任に逆らったりしていた奴等でも、最近では大学の指定校推薦を意識して、担任や教科担当に目をつけられるのを極端に嫌がり始めている。

俺たちのクラスは普通科文系、私立大学だけを受験する奴がほとんどだ。
国公立を受ける姉貴みたいな頭の良い奴等は普通科特進コースで、あわよくば指定校推薦を狙っているのは俺たちみたいな普通科文系、理系の生徒。
二年のこの時期の成績や生活態度も、指定校推薦の点数に加味されるらしいからと、最近はみんなそわそわして落ち着かない。同じ指定校を狙っている同士は水面下でライバル意識を燃やしている。

そんな中、俺はまだ、なんにも決めることができていない。