自己顕示欲のかたまりみたいな女子達のFacebookやブログと違って彼女のそれはまるで、彼女だけの日記帳のようだった。
例えばばっちりフルメイクで斜め上から何度も取り直したであろう自撮り写真とか、アプリで加工したカフェのランチ写真とか、そういったものが一切ないブログ。
子犬の写真に偶然写ってしまったらしい彼女の左手、子犬の背中を撫でる優しそうなその手には、ぎらぎらのネイルやブレスレットや指輪の類いは何もついていなかった。
自由に閲覧できる日記の中身すら、誰かに見られることを想定していないのだろうかと思うくらい、ごくごく普通の日常のことだけが、毎日欠かさず淡々と綴られている。
俺はその、誰かに見られることを一切意識していないシンプルなブログに妙に好感を持った。
俺の(ミキの)ブログにコメントをくれた、今日の日付の日記をクリックして開く。
〈○月○日
今日はここ最近で、一番ショックな出来事があった。こんなことで落ち込んでしまう自分が嫌になる。
気になる癖に、聞けない自分も、悔しいくせにどうにも行動できない消極的な自分も。
だけど、帰ってきていつもみたいにミキさんのアクアリウムの画像を眺めていたら、なんだか勇気が沸いてきた。その勢いで、なんとミキさんのブログにコメントしてしまった!自分の勇気をほめてあげたい。〉
彼女の今日の日記はそこで締め括られていた。
「自分をほめてあげたいって…」大袈裟か!と思わずひとりでぷっと噴き出してしまった。
「ナナ、ねえ…」
今日何度目かの独り言。振り返ると、『ナナ』が絶賛してくれた俺の水槽が、ゆらゆらと光を放っている。
心なしか、いつもよりも綺麗に見えた。